010.共に汗を流し、まっすぐ、体当たりする経営者 5/6
― まず何から着手した?
修行です。先輩のちゃんこ屋さんに修行に行きました。3ヶ月間みっちり学ばせて もらいました。築地の仕入れから仕込みも全部。
「なんだ、簡単じゃん」→「こりゃ、潰れるな」
― そして、店がオープンするわけですが?
初めは理念も何もなくて、ただ生活のため、家族を食べさせるためだけに 店を開けたって感じでした。
― お客様の出足は?

義理でだいたい一回は来てくれました。「玉海力の店だ」となると来てくれるんです。 それにオープンが10月だったこともあって、冬場に向かいますから 1年目は繁盛しました。
「なんだ、簡単じゃん」と思いました。
でも、春になったら閑古鳥。その瞬間に「こりゃ、潰れるな」と思いました。
商売は甘くない。『あきない』というだけあって長くやらなきゃいけないなと。
それで、店頭で焼き鳥を焼いてみたんです。 香りや目新しいムードでお客さんを誘い込む演出を思いつきまして、 やってみたら当たったんです。
― ちょっとびっくりな発想ですよね?
思いついちゃったんですよ。
当時、国民金融公庫からン千万円の借金をしまして、30歳ですから死ぬ覚悟ですよ。
潰したら死ぬしかないと思って、死亡保障額5000万円の生命保険にも入りまして、
いざとなったら、死んで借金も返せるし家族に迷惑かけなくて済む。
― ・・・捨て身の覚悟
そうです。苦しくなって色々考えたら行き着いたんです。
人と違うことをやるのが大好き。広尾とちゃんこという発想もそこから思いつきました。
社員たちへ「自分第一だよ」
― 素晴らしいですね。魅せる人ならではです。相撲は言わばライブ・ショー。
取り組み一番一番は即ちファンサービスです。その発想が身に着いているんですね。
私はスタッフに、「うちはまずお客様第一じゃなくて、自分第一だよ」と教えています。 というのは自分が満足していて、幸せじゃないと相手を満たすことができないからです。 中には辛い思いをしながらサービスに出ている人も居ると思いますけど、うちは違います。 まず自己実現。そこからお客様や地域に貢献します。

忙しいけど楽しいと思って働いてもらっています。
今、取り組んでいるビーチ相撲※もその発想です。
したことないことを体験することによって"変わる"を味わってもらいたいんですよ。
※『礼にはじまり、礼に終わる』をモットーに河邉氏は 青少年の育成と教育を目的とする日本ビーチ相撲連盟を設立。 ビーチで裸足になり、親子はもちろん、子ども同士でビーチで 本気のぶつかり合い、相撲を体験する。 大きなビーチで思い切りぶつかり合うことを通じて親子の絆や仲間との信頼感、 礼儀作法、思いやりを学ぶことを目的としている。
"育てる経営者"河邉幸夫
そのためには「オーナー社長でござい」とふんぞり返っていてはダメ。

新入社員は私が直接指導します。 入ったばかりの頃はやさしく、私が責任持って言って聞かせますが、 役職が上がるにつれて、ビシビシ追い込みます。特に店長にはつぶれる寸前まで やります。そこを越えたらその子は一皮むける。変わります。 やる気のない者がもたらす影響は大きい、空気が澱みます。 だから追い込むんです。
何を言ったって、使われる身は「日常業務でいっぱいなんです」となりますから。 時間の許す限り、すべての店に顔を出して、スタッフの頑張りに目配りします。 伸びている、頑張っている、磨きがいがあるというのはすぐにわかります。
私が16年間の力士生活で実感したのは、 早い段階で挫折感も達成感も両方経験した者が精神的にも人間的にも強くなるのだ ということ。
力士時代、同期入門した112人は半年で半減。10年後に残っているのは 2割くらいでした。きちんと廃業する人、定年を迎える人もいますが、 すかす(=逃げる)人も何人も見ました。そういう人を見て思ったのは 「一度、逃げるとこの後の人生でも逃げて回ることになる。それは嫌だ」 ということでした。 別の道に行って、ブレイクする人もいましたけど、辞めるならけじめをつける。 退路を断って、物事に取り組むべきです。

私の場合、すかしたくとも「地元に戻ってどの面下げて・・・」っていうのがありました。
「力士になるよ」と宣言して、クラスの皆が送別会開いてくれて、
絶対強くなって帰ってくるって約束したのにすかしたら、
一生、みんなに頭が上がらないし、情けない。親に恥をかかせることになる。
それなら、ここで稽古つけて強くなっていくしかないんだと覚悟を決めました。
それで耐えることができたんです。