008.料理の道しかない!~サムライ・シェフ、星を獲りに行く~ 3/4
― それは言われたら嬉しい。熱くならざるを得ませんよ。
ホントですよね。 実際、僕にそう言ってくれた人は 2000年の最優秀コック選手権で2位になりましたし、 あの当時、一緒に働いていた仲間はみんな星を獲っています。
― 負けちゃいられない!
ああ、もう絶対!
やっぱり、自分の前には料理の道しかなかったから。 どんなに大変でも一度もやめようとは思いませんでした。
それに、一つ一つを乗り越えるうちに、クソ度胸とかついちゃうんです。 だから、修行に行ってよかったと心底思いますよ。 すごいことが起きても回復できる力がつきました。
― 心に弾力がついたと?
そうですね。例えばですけど、この店が潰れたとしてもまたやれるなと思うんです。 倒れても復活できるだけの自信はありますよ。それくらいの経験をしたってことです。
帰国、オーナーシェフになる
・・・大平氏は約7年間をベルギーで過ごした。
努力に努力を重ねてめきめきと頭角を現し、やがてその力は名店も認めるところとなり、
首都、ブリュッセルのメガレストラン『バザール』の料理長に就任。
その後、日本に帰国して師匠の下でさらに修業を重ね、
神楽坂の『ルバイヤート』で料理長を務めた後、念願だった"自分の店"をオープンした。
2007年のことである。・・・
― 他ならぬ目黒を選んだ理由は?
ここしかなかったんです(笑)
リーマン破綻前で地価が高くて、高くて、手が出なかった。
それに僕ひとりの力で始めるとなるとこの場所しかなくて。
ただ、僕としてはボロかろうが、なんだろうが、
"美味しかったらお客さんが来る説"をつくりたかったんです。
決して集客力のあるエリアではないので、本当にいろんな人に助けてもらっています。 オープン当時、本当に支えてくださった偉大なお客様がいて、 その方たちがいなかったら100パーセント潰れていますね。 お客様をどんどん紹介してくださったんです。 感謝の気持ちでいっぱいで、そのお心遣いを無駄にしたくないです。
美味しくなかったらもちろん誰も来ないと思いますけど、 お客様は僕が死ぬ気でやっていることに共感してくださる熱い方ばかり。
― 確かに、"死ぬ気"は背中に見ました。初めてお邪魔した時、はっきり感じました。 ちょうど席から厨房の大平さんが見えるので、ガン見しました。
ありがとうございます!厨房では鬼になって、お皿に集中します。
料理で世直ししたい
贔屓にしてくださるお客様から「僕が通い詰める店は絶対に星をとるから」って 言われているんです。これは僕、星を獲るしかないと思って燃えてます!
― 星を獲るのはいつ頃になりそう?
再来年ですかね。それにこの店は最終段階じゃないんです。 もう次を考えていて、そこには僕の全財産を投入してやりますよ。 失敗したらしたでいい。またやればいい。とにかく挑戦したい。 いわゆる格付けには様々な意見はありますけど、星をどうしても獲りたいんですよ。 ゼロからすべて自力でやって、三ツ星を獲れるかっていうのがこれからの僕の挑戦です。
「獲れなきゃおかしいだろ」くらいの店を作って三ツ星獲って、その後、ちょっとした 秘策を考えています。料理で世直しするつもりです。
― どんな秘策?
それは今はまだ・・・
― じゃあ、オフレコで聞かせてください(笑)
はい、オフレコで。
― 「料理界は人材確保が難しい」と言うけど、要するに"ちゃんとした人間"がいない という意味ですよね。これは企業の人材育成の場でも同じ。 育てるのが難しいということも言われます。料理界も含めてどんなことが問題だと?
うちの売りは一生懸命やっていることなんですけど、 自分で熱く勉強して必死にやるとか、今、あんまり流行らないんですかね。 簡単にあきらめる。任せると「荷が重い」と辞める。根性が見えてこないんです。 これは、同業者からもため息交じりに聞こえてくる声ですよ。
僕が修行していた時は、「店を持ちたい」「早く料理で表現したい」という気持ちが 溢れていて、家に帰っても寝る間を惜しんで、食材を揃えてかなり練習したし、 お休みの日もそうだった。 今だって休みの日でも結局、店に来て何かしら仕事をしています。
わからないことをわかるようになりたいと思ったり、 できないことをできるようになろうと必死になったり、そういう粘り強さのある人が 減ったように思えます。
将来は自分でつくるものなのに、誰かが作ってくれるものだと思っている。 だから、僕が生き方を見せて、料理を通じて世直ししたいんですよ。
自分でやって見せて新しい価値観として示したい。 ただお客様を呼び込むためだけじゃなくて、 人材不足の料理界にも新風を吹き込めればいいと思っています。